聞かせず聴かせる

2022/10/14 (金)

耳が少し遠くなった方に補聴器をお勧めすると,最初は装着を嫌がる方が少なくありません.
それは,わずらわしさだけじゃなく,雑音まで大きく聞こえてうるさく感じるからのようです.
確かに人間の耳は高性能で,聞きたい音を自然に聞き分けます.
たとえば騒がしい教室にいても,気になる異性の声はすぐ耳に入ってきます.
一方,あまり関心のないことは近くで話されても「うわの空」になれます.
つまり,漢字の通り「耳」の前には「門」があって,聞こえる音を通したりさえぎったりしてくれているようです.

診察の時も,必ずしも患者さんは「耳の門」が開いているとは限らないと思っています.
症状が軽くても大きな病気の前触れじゃないかと心配したり,受けてきた検査で何か深刻な所見があったんじゃないかと不安になったり,ショックをやわらげようと耳の門が狭まっているかもしれません.
なので,いきなり検査結果を「聞かせる」のではなく,「ご心配でしたでしょう,いまからしっかり説明しますね」のような言葉で「門」を少し広げてからお伝えするようにしています.

「言ってるのに聞いてもらえない」と思った時は,きっといろんな理由で耳の門が閉じています.
そんな時は.自分本位に「聞かせる」のではなく,相手が知りたい「恵」となることから話し始めてみてください.
そうすれば「耳」の方から寄り添ってきて「耳+恵=聴かせる」ことができるんじゃないかと思っています.